良い名前が思いつかない

電子回路屋が趣味でやっていることを書き残します。

発火・発煙の報告があるパネルヒータの分解検証

小動物飼育でよく使われるパネルヒーターですが、某社製品について発火や発煙が報告されています。
我が家でもオカメインコのケージに取り付けて数か月使用しましたが、変色や巷でのトラブル話もあったため使用を中止しました。
もう使う予定はないので、簡単に分解検証してみます。


注意
今回分解検証する製品は既に廃番になっています。現行品は対策されているという話も聞きますので、その点留意してください。


製品の状態確認

外観

我が家のヒーターの状態

我が家で使用していた製品の状態です。H(約95℃)/L(約80℃)の2段階設定のうち、Lモードで数か月使用していました。
発熱面である表面の板が、部分的に茶色く変色しています。

通電時温度

Hモードで通電し、サーモカメラ(FLIR One Pro)を使用して温度を確認します。
使用していた時と同じ姿勢(電源コードを上へ向ける)で確認しています。

FLIR One Proで温度確認

全体的に温度のばらつきが大きく、特に変色している部分は突出して高くなっています。
最高温度は、室温約20℃時に111℃となりました。カタログ上では95℃となっているので、カタログより高くなっています。
サーモカメラで最高温度部を観察していると、110℃前後まで加熱したら停止⇒90℃前後で加熱再開を繰り返しているようでした。
平均して100℃前後といったところでしょうか。

内部構造の確認

ヒーターの内部構造
表面の板

表面の板は、その外観からガラスエポキシ積層板のように見えます。プリント基板等でよく使用される素材です。高温になっていた部分は茶色に変色しています。

絶縁紙のようなもの

ヒーターと表面の板の間には、絶縁紙のようなものが挟まれています。こちらはかなり変色していて、シワが寄っています。シワは過熱による変形でしょうか。

ヒーター

ヒーターは黒い部分で、6エレメントに分かれているフィルムヒーターです。樹脂材に印刷や蒸着で抵抗体を形成したうえで、もう1枚の樹脂材で絶縁するタイプのものです。銀色部分が電極です。
現行機種では「PTCヒーター採用」が謳われていますが、本機種には記載がないためがPTCかどうかは分かりません。*1

参考情報(フィルムヒーターの構造)
CNTフィルムヒーター | ヒートラボ株式会社

例の高温部の裏側には温度センサが入っていました。温度センサの分ヒーターに厚みがあり、表面の板に強めに押し付けられていました。
この影響で、センサ部分以外のヒーター面は表面の板に密着できず、絶縁紙にシワが寄ることができる程度の隙間ができていたようです。
センサ部は密着の良いため表面の板に熱がスムーズに伝わり、温度が高くなっていると考えられます。

プリント基板
プリント基板

詳細は割愛しますが、プリント基板に実装している部品は、国内メーカ品を中心に採用されています。
サーミスタか何かで温度を見て、ヒーターをON/OFF制御するシンプルなものです。
温度ヒューズは使用されておらず、保護機構は電源部の電流ヒューズのみです。

考えられる劣化・故障原因

加熱時に表面で110℃ですから、内部はかなり高温になっているものと思われます。特に、表面の板との密着が悪い部分は相当温度が高く、ヒーターの耐熱温度を超えているような気がします。
記事最後に実際の故障事例を引用していますが、ヒーター面での放電の報告があるため、くし形の電極間に何かしらの電路が形成されて短絡していることが考えられます。
断定はできませんが、電路が形成される過程としては、

  • ヒーターの過熱で挟んでいる樹脂が炭化もしくは変形→絶縁破壊による放電
  • ヒーター電極でイオンマイグレーション*2が発生して電路が形成

といったものが考えられます。

所感

分解して簡単に検証してみましたが、電熱器具としては安全策が不足していると感じました。
下に引用している故障が設計上の理由により発生したのか、温度制御機構が故障して発生したのか、または使用者の使用方法が悪かった(周囲を囲うなど)かは分かりませんが、少なくとも安心して使い続けられる製品でないと感じます。
最初に書きましたが、PTCヒーター採用を謳っている後継機種は安全な設計になっているはずなので、安全に使用できるであろうと思います。

参考事例

*1:PTCヒーターは、キュリー温度付近で急激に電気抵抗が上昇する特性があり、外部の制御がなくても一定の温度で安定する性質をもつ。

*2:エレクトロケミカルマイグレーション - Wikipedia